塩 ひ と つ ま み |
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■一生もの忘れかけた頃にかかってくる電話があります。年に1〜2件でしょうか。
これもそれでした。「そちらでは、中卒の子どもでも受け入れてくれますか」
中学の先生からのものです。学年度末が近付くこの時期、生徒・保護者・教師による「三者面談」をひかえて、その進路指導の一助にしたいという問い合わせです。中学を卒業するにあたり、これ以上は上の学校に行きたくない、勉強したくないという生徒が出てきます。教師としては、高校の義務教育化がすすむなか、なんとしても進学させたい。その説得材料のための情報収集というわけです。学校や勉強を拒否しても、料理が好き、お菓子を作るのが好きという子どもたちがいます。その子たちが落ちこぼれないように救ってあげたい。先生も必死なのです。
当校が調理師を養成する学校ではないと承知していたようですが、「学校」というからには入学試験があり、受験資格もいると思ったようです。冒頭の質問はそこからきています。もとより、小学生以上ではあれば、学歴、性別、年齢、国籍は問わないし、入学は随時(ということは休学・退学も自由)です。
「どんな授業をするのですか」
こんどは授業内容の質問です。勉強が嫌いな子たちですから、栄養学だ衛生学だといった座学は辛抱できないとわかっています。これも本校は実習本位ですから、1時間ぶっ通しといった座学はしません。たのしくやりましょうがモットーです。週1回月4回の授業は意外だったようです。全日制と思ったそうです。これだと本格的に料理の道を歩もうという人には十分なカリキュラムとはいえません。料理を一生の仕事にしようとするなら、調理の技術はもちろん、関連する知識や情報・エピソード・歴史など幅広く一般教養を身につける必要があります。勉強は嫌いなどと言ってはいられません。高校で習う3年間は、その意味でとても重要な時期になってくるのです。中学でストップするか、もうあと3年積み上げるか、その差は想像以上に大きいと思います。
それに、学歴がすべてでないとはいえ、長い人生の中では高卒資格がないばかりに悔しい思いをすることがあるでしょう。そうならないためにも、ぜひ高校は出ておいたほうがいい。学校生活、集団生活が苦手なら、通信教育という手段もあります。などと、電話口で顔がみえないのをいいことに、専門家にむかって釈迦に説法のような失礼なことも言ってしまいました。
以前にも、娘が高校を中退して料理を習いたいと言い出して困っていますと電話をよこしたり、直接来校されたお母さんがいました。このときも同じように、折角だから高校は出ておいたほうがいいですよ。そんなに学校がいやで料理が好きなら、ここに通いながら通信教育を受けることもできますよとアドバイスしました。結局、当の本人は現れませんでしたが。
どうも、料理が不登校や勉強嫌いのセーフティーネットとして位置づけられているフシがあります。でも、かまいません。これがきっかけで本気でプロの料理人をめざすかもしれません。とりあえずの一時避難でもいいのです。逃げ、腰掛け、おおいに結構です。料理を習っておいて損はなし。一生のものだから。このことは、はばかることなく断言できます。
【野口料理学園】
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