塩 ひ と つ ま み

■食欲と食育 

[食欲]
このところ、某社員食堂のメニューが健康食ということで大モテのようです。レシピ本として売り出され、ベストセラーになっています。

生徒さんがこの本を買って、ひとつのヘルシーメニューを選んで料理、8歳の長男に食べさせました。最初のひとくちふたくちはよかったものの、「おいしくない!」と言って途中でやめたそうです。「どうしてなんでしょうね」と、彼女は腑に落ちないようです。

ヘルシーというからには、当然のことカロリーを抑えるために脂分はひかえめ、高血圧要注意で塩分も少なめと、生活習慣病にかからないように工夫されています。でも、ここに落とし穴が…。子どもにとってはどうにも物足りないのです。

カロリーであれ塩分であれ、とりすぎはいけませんが、成長期の子どもにはどちらも必要量が欠かせません。ヘルシーだからといってもそれは大人の事情であって、子どもの側からすると味が薄すぎて食欲がすすまず、おいしいとは感じないでしょう。美容にいいからと、子どもにもダイエット食を食べさせるようなものです。余分な塩分・糖分・脂分は禁物ですが、大人と子ども双方の事情のちがいをわかった上で分量を調節してみてください。きっとおいしくなるはずです。

[食育]
ジュニアクラスでのこと。4年生の子が言いました。
「僕たちの学校の給食のおばさん、6人に増えたよ」
児童が200人ほどいる小学校です。1人100人を目安として、この規模だと、給食係は2〜3人というところでしょう。

「どうしてそんなにいるの?」
「よその学校から移ってきたからだよ」
少子化が進むなか、在校児童が減って学校同士が統合します。それでもたいした人数になりません。経費面から自校給食を断念するところがでてきます。かといって、すぐさまおばさんたちを解雇するわけにいかず、とりあえず自校給食をおこなっている他の学校に振り分けられるようです。

「友達が、給食がなくなってさびしいって」
それはそうでしょう。調理中のおいしそうなにおいが厨房から教室にながれはじめると、空腹に耐えられない子どもたちはおなかの虫が鳴ってそわそわしだします。お昼のチャイムと同時に当番が配膳室に急行、できたてのごはんや味噌汁やおかずが入った大きな容れ物を、元気よくお礼を言いながら給食のおばさんから受け取り、教室に運んで一人ひとりの器に盛ります。

やっとありついたあつあつの給食は、一所懸命作ったおばさんたちの笑顔と愛情がたっぷりこもっています。こどもたちもそのことをよく知っています。だからこそ、食べられなくなってさびしい思いをしているのです。

自校給食廃止後は、業者によるお弁当か、地域内にある給食センターからの配達食のどちらかになるのでしょう。どちらにしろ、自校給食とちがって調理する場所も作る人の顔も見えない、においもただよってこない。それもさびしさの原因かもしれません。

調理の現場が遠のいては、子どもたちの食育推進に逆行します。さまざまな名前や色・形をした食材が給食のおばさんたちによって調理され、自分たちの目の前に並びます。それをみんなで一緒にたのしくいただく。このように食を通じたコミュニケーションから学校内の結束や地域とのつながり、料理のおいしさ、健康の大切さなどがごくごく自然に子どもたちの頭と体にしみこんでいきます。自校給食の取り止めは、そうした食育の理解と浸透にブレーキがかかるということです。残念としか言いようがありません。

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<これまでの塩ひとつまみ>
【野口料理学園】

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