塩 ひ と つ ま み |
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■粒あんか、こしあんか大型連休中、東京に住む叔父夫婦が八ヶ岳の別荘に遊びにきているというので久しぶりに会いに行くことにしました。前日に電話で都合を聞くと、甲府で柏餅を買ってきてほしいとのこと。お安い御用よ、と引き受けました。
当日、老舗の和菓子屋さんに寄りました。「粒あんですか、こしあんですか」の店員さんの問いに、あ、そうか、うっかりしていました。どっちだったかしら。依頼主に聞こうと、急いでケータイを取りに車に戻ると、「どっちだっていいだろそんなの、アンコにちがいないんだから」と運転席の夫。「そうでもないのよ。ちゃんと好き嫌いがあるんです」「お前はどっちなんだ?」「私は粒あんよ」「じゃ、それにしたら」「だめよ、ちゃんと聞かないと」
夫は後部座席にいる帰省中の娘にもたしかめます。
「お前は?」「もちろん粒」
納得しそうにない夫はさらに言います。
「アンコはアンコだろ。甘さに差があるのか」「感触がまったく違うじゃない」。娘にもやりこめられます。
「粒だって、噛んでつぶれればこしあんになる」「いいえ、皮のあるなしが重要なんです」。「わからんな。今の今まで、アンコで粒だのこしだのと考えてもみなかった」
大の甘党らしからぬ発言です。もっとも、酒飲みの言う、アルコールが入っていればなんでもいいと同じかもしれません。店の人を待たせている手前、アンコ談義にかまけているわけにはいきません。
「あなただって、納豆はひきわりより大粒を好むでしょ」
納豆党の夫は豆にこだわり、ひきわりはたべません。
「納豆は豆が命、それも大粒でないとな。これがわからんようじゃ真の納豆好きとはいえん」などと普段から公言、ごはんにはかけずソロで食す凝りようです。この譬えが効いたのか、反論は止みました。「そうよ、私は断然粒あんよ」
別荘で待っていた叔母です。アンコ談義が蒸し返されました。
「粒を噛むことによって甘さが増幅されるのよ。こしあんでは物足りないのよ。わからない?」「そうかな。甘さに変わりはないと思うけど」。怪訝そうな夫は、叔父に助けを求めました。無類の左党で、数年前、劇的に甘党に変身した御仁です。夫が「どっちだっていいだろ」の返事を期待したのはみえみえでしたが、「僕もどっちかというと粒だね」の意外な回答。助っ人を失って、夫は後が続かなくなりました。やがて、いつのまにか話題が犬派・猫派に移りました。全員、犬が大好きです。犬好きでは人後に落ちない私です。「でも猫は嫌い」と発したことばに、「あら、どうして、かわいいわよ。私は猫も負けず劣らず大好きよ」と叔母が反応しました。
これを助太刀ととった夫が、ここぞとばかり加勢します。叔母同様、犬猫両派なのです。
「それみろ。お前な、それは粒が好きかこしが好きかのアンコ論といっしょだぞ」の茶々を入れ、一同大笑いしました。
これで夫が一矢報いた感がありましたが、すかさず娘が切り返します。
「お父さん、それはちょっと無理。ペットだからといって、犬と猫をいっしょにするなんて暴論。犬猫のどっちにたいしても失礼よ。たとえば犬ならその中で日本犬が好きとか、洋犬が好きとかならわかるけどさ」。正論です。甘過ぎました。娘の勝ちです。
たかだかアンコ。とはいえ奥が深いというか他愛ないというか、アンコ論に花を咲かせるノドカでヘイワな一日でした。
【野口料理学園】
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