塩 ひ と つ ま み

■いないの、天才犬? 

夕方になると、決まって一匹の小型犬が飼い主さんと一緒にやってきます。愛くるしい7歳のトイプードルです。1年以上前のこと、この飼い主さんが病気で散歩ができなくなった折、犬好きの私たち夫婦が買って出て、短い期間でしたが、代わるがわる連れて歩きました。それ以来、ワンちゃんも私たちも、日に一度は顔を合わせないと気が済まないようになりました。いつの間にか、ただ寄ってもらうのも申し訳ないからと、自家製のパンを三片ほどやることも習慣化しました。

そこで面白い現象を発見しました。なんと、犬も猫のようにのどを鳴らすではありませんか。猫のような優しいグルグルではなく、むしろ豚に近いブーブーです。実は、鼻を鳴らしているのか、のどを鳴らしているのかはっきりしません。飼い主さんも家では聞いたことがないと仰います。どうやら、パンくずをせがんでいるときに出す特異現象のようです。食べ終わるとその音は止まるのです。このワンちゃんの特有の芸なのか、どの犬も持っている普通の動作なのか定かではありません。

ご存じのように、「犬に食べさせてはいけない物」というのがあります。あるネットサイトによると、その数は138品目にのぼり、特に危険な物としてチョコレート、ネギ、ニラ、ラッキョウ、ブドウ、アルコール類などを挙げています。
半世紀以上前、我が家でもコリー犬を飼ったことがありますが(アメリカのテレビ映画「名犬ラッシー」が流行った頃、といえば、私の年齢年代がバレてしまいそう)、犬にいけない食べ物があるなんて考えもしませんでした。家族の食事の残りを与えるのが当たり前でしたから。

主人も子供のころ、2度飼ったことがあり、人間の食べた残飯いわゆる“ワンニャン飯”を何の疑いもなく食べさせていたそうです。知らなかったとはいえ、それによってどれほど愛犬の健康を損ねていたかと思うと、空恐ろしい気がします。
当時の日本といえば、ごはんとみそ汁(だしは煮干し)を両軸に、魚、野菜これに漬物が付いたほんとに簡素というか質素なものでした。ワンちゃんにまわるのはその残りですからタカが知れています。それにしてもネギ、ニラ、ラッキョウの類は当時もありましたから、何度となく「原因不明の中毒」を起こしていたのかもしれません。ごめんなさい、お犬さんたち。

昭和30年代、高度経済成長期に入って生活程度が向上します。日本人の食生活も驚くほど豊富かつ多様化していきます。生活様式の欧米化の波が押し寄せ、ワンちゃんの地位も「番犬」だけでなく「愛玩」の要素が加わってぐんぐんと上がり、「外飼い」から「内飼い」が増えていきます。ペット化が進んで多種多彩な犬種が好まれるようなり、犬の飼育法の知識・情報も大量に出回るようになります。すでに犬猫病院はありましたが、専用の美容院、服・アクセサリー店、ホテル、レストランなどが出現してきます。昔は、人も犬も「肥満」とは無縁でした。というか無頓着でした。飽食の今日日、「肥満」は両者ともに深刻で、ダイエットに勤しむ時代となり、ワンちゃん専門のジムがありトレーナーまでいるとか。

お犬様が人間様の生活領域に割り込んでくるのとは反対に、食べ物は完全に切り離されています。いまどき食卓の残飯を与えている家庭などないでしょう。「餌」ではなく「食事(フード)」として人間同様お店で買わなければなりません。こんな時代がこようとは、想像すらしませんでした。
ワンちゃんは猫と並んで人間の生活にもっとも身近にいる動物です。これほど親密な間ですが、いや、濃密な仲だからこそ望みたいことがあります。食事時のワンちゃんの行儀です。あの、人目(?)をはばからず、がつがつ、一気に息も切らせず食い散らかす下品な振る舞い。無作法ったらありません。愛おしさも半減します。なんとかならないでしょうか。もっとゆっくり、楽しみながら優雅に味わって食べなさい! そうタシナメタイ衝動に駆られるのは私だけでしょうか(人間様の勝手、エゴ、わがままとは思いつつ)。

何遍言ったところで馬(犬)耳東風、まるで可愛げがありません。笑えとはいいません。一、二度、止まって顔を上げる。こんなゲイトウのできる天才犬、登場してもよさそうですが、どなたかご存じありませんか。グルグル、ブーブー鳴らすワンちゃん発見の例もあります。世界は広いのです。きっとどこかにいると思うのです。

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