塩 ひ と つ ま み |
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■くれぐれもお忘れなくつい先日のこと、トマト缶を買物袋から取り出すときに誤って床に落としてしまいました。齢のせいでしょうか、いえ、不注意からです(!)念の為。それはさておき、もしかしてと思い、手に取ってみると案の定、プルトップのふたがほんの少し歪(ゆが)んでみえます。当たり所が悪かったのか、空気が入ったようです。赤い汁が沁み出ています。すぐに中身を取り出して器に移し替えました。
最近の缶詰のふたというのは、ほとんどがプルトップです。素早く取れて便利です。昔は手間がかかったものです。まず、手元に缶切りを置いておく必要がありました。なかったら悲劇、それを探すところから始めなければなりません。つぎにそれを手に取って缶詰の上部に当ててシャカシャカ一周させるのですが、缶切りの良し悪しに左右されるとはいえ、それぞれ缶詰の形状があって一様ではないのです。とりわけ四角いのは四隅の部分が非常に厄介でスムーズにはいきません。
コツは丸も四角も全部切ってしまわないこと。少し切り残しておいて全体をめくり上げます。全部切り落としてしまうと、ふた自体が中に落ち込んで取り出さなければなりません。落としぶた状態です。事前にふたをきれいにふき取っておけばいいのですが、忘れて汚れたままだと、その汚れが中身に付着してしまいます。
ここからもっと厄介な作業が待っています。缶切りで切った断面というのはギザギザのノコギリそのもの。危険極まりない。実に簡単に指を傷つけてしまい、しかもその瞬間ではなく、後になってはじめて気が付くことが珍しくありません。これまで何遍切ったことか数え切れないほどです。
こうした煩わしい缶切り作業から解放してくれたのがプルトップ方式の登場です。1970年代後半から普及したと言われています。便利で安全で衛生的ですから、今や従来方式の缶詰を探すのに苦労するくらい、圧倒的にプルトップが占めています。
ただし冒頭のように、衝撃に弱いのが玉にキズです。
実例を紹介しましょう。豆腐の水切りのときです。布巾に包(くる)んだ豆腐をバットに置きます。上に平らなものを敷いて重石(おもし)に缶詰を載せてしばらくおくのですが、このときバットの傾斜角度をきつくすると、缶詰が下に転がり落ちてしまいます。そんなに強い衝撃ではないので、ふたにひずみが生じても分からない場合があります。ほんのちょっとした隙間からでも空気が中に入り込んで酸化が始まります。時間が経って中身が腐食するとガスが発生、泡のようなものがブクブク……。
原因も理由も知らない人がこの現象を目の当たりにすると、ちょっとしたパニックを引き起こし兼ねません。ある生徒さんが
「先生、たいへん、缶詰から煙が。もしかして、バクダンでは?」
私も
「みんな、伏せてー!」
などと、本気にさせて怖がらせます(こうした実体験を基にして得た知識は忘れがたいものです)。かくてプルトップ全盛ですが、従来式でなければならないものもあるようです。業務用の大きなものや重たいもの(具体的な数値は不明)はプルトップの使用を避けているようです。また、強い衝撃が想定される行動や作業においても同様とか。たとえば災害時において、自衛隊が被災地にヘリコプターから食料を投下する際は、衝撃に強い従来式の缶詰が選ばれると聞きます。
こんなことから、地震・台風など緊急用の避難袋にはヘルメット、水、財布、懐中電灯、携帯用トイレなどとともに是非「缶切り」を入れておくのをお忘れなく!
【野口料理学園】
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