塩 ひ と つ ま み

■マナーは世につれ (その1)

インターネットサイトの“goo”に、「行儀が悪いと言われてもやめられない食事中のマナーランキング」なるものが載っていました。
あらたまった席ではなく日常の食事の時に、行儀が悪いとわかっているのについやってしまうマナー違反のランキングなのだそうです。
面白そうなので、のぞいてみました。

1位に輝いたのは「食事をしながら新聞や雑誌を読む」。
なるほど、一緒に食事している人にとったら失礼千万です。まわりにいる人間の存在を無視した行為といえます。ただし、自分がひとりで食事をするときとなると、そうもいっていられません。たとえば外食のときなど、どうにも食べることに専念できず、かといってそこにテレビもなければ、外の景色もみられないというときに、手持ちぶさた、目のやり場に困ることがあります。他のお客さんをジロジロみる勇気はないし、室内を見渡すのも、なにか店の粗さがしをするようで気が引けるものです。みなさんもおぼえはありませんか。

私などはそうしたとき、新聞・雑誌ではなくて、そっと手帳とかメモなどをとりだしスケジュールを確認するフリをして「仕事第一」「食事は二の次」をヨソオウことがあります。その点、現代はケータイという重宝なものがあって助かりますね。

これとならんで私が是非ランキングの1位にあげたいのは、「食事をしながらテレビを見る」です。
食事は家族間の大切なコミュニケーションの場です。夫婦、親子、兄弟(姉妹)が食事をしながら、その日のできごと、悩み、喜び、夢・希望などを語らう絶好の機会です。テレビはつけないで、会話を通じて家族の絆を深める。我が家では、娘が高校をでるまでは、つとめてそれを励行しました。それでよかったと思います。

でも、今はやめました。娘がいない現在(他県で大学生活)は、反対にテレビを見ながら食事をします。テレビの力を借りて話題作りをしないといけなくなりました。夫婦を何十年もやっていると、阿吽の呼吸が高じてめっきり沈黙の時間が増えました。これではいけません。食卓が味気なくなります。刺激が薄くなって老化を速く呼び込むことにもなります。そこでテレビに仲間に入ってもらうのです。言ってみれば、テレビは子供の身代わりです。

脳を活性化してくれるのはテレビだけではありません。インターネットはそれ以上です。おびただしい情報を即座に簡単に手に入れることができます。テレビと映画と書物の全部を兼ね備えた道具、つまり複数の子供に囲まれた気分です。便利な時代になりました。

2位以下、10位までをみてみましょう。
2位 好きな部分を最後にとっておく。
3位 ケーキのセロファンをなめる。
4位 食べながらしゃべる。
5位 みそ汁をごはんにかけて食べる。
6位 生卵を直接ご飯にかける(器にとらない)。
7位 ひじをついて食べる。
8位 迷い箸。
9位 嫌いなモノだけをよける。
10位 とりあえずにおいをかぐ

いくつかコメントしましょう。

・4位の「食べながらしゃべる」。
口にものを入れながらしゃべると、ものが口からこぼれたり飛んだりするのでやってはいけない。これは正論です。
食事をしながらのおしゃべり、これはマナー違反ではありません。昔は、厳につつしむ行為でした。とりわけ女性にとっては。現在は、むしろ積極的に勧めます。席を乱すようなはみ出し行為は眉をひそめますが、おしゃべりを交えながらの食事はじつに楽しいものです。日常の食卓で、会話がなかったり、笑い声のひとつも起こらなかったら、そのほうがヘンです。お通夜ならいざしらず、場所柄をわきまえれば問題なしですが、口角泡を飛ばすこともあるので用心しましょう。

・6位の「生卵を直接ご飯にかける(器にとらない)」。
マナーというより、必要な作業です。ちゃんと理由があります。卵が痛んでないかどうかを、さきにまず別の器にとって調べてみる。すなわち「品質検査」です。それをしないで直接ごはんにかけるのは「自殺行為」です。

・7位の「ひじをついて食べる」。
我が家では、これとならんで、「足を組んで食べる」を、見苦しい動作としてつとに戒めています。食事をいただくのはありがたいこと、感謝すべきこととして、ひじをついたり、足を組んだりしてはいけないと、小さいころから子供にうるさく言ってきました。主人などは、そんなだらしない男を連れてきたら許さんぞ、と日頃から娘に吹き込んいるほどです。理屈ではありません、合理的な根拠もありません。ただ単に美的でないという感覚だけなのですが。

・9位の「嫌いなモノだけをよける」。
好き嫌いの多い「こども」というイメージがありますが、どうしてどうして、こうした行動をとる大の大人がたくさんいます。なかに悪知恵の働く人がいて、「ネギはお医者さんから止められていまして…」などと勝手にお医者さんのせいにしています。料理のメニューは、味の面でも栄養面でも、総合的なバランスを考えていろいろな材料を使うよう工夫されています。嫌いだからとはじいてしまっては、味をころし、栄養を捨てているようなものでしょう。そこのところを考えてほしいと思います(ツケはあとからきます)。

・10位の「とりあえずにおいをかぐ」。
今の世の中、逆にこれは必要なことかもしれません。農薬の残った野菜や毒入りのあんこ、異臭のする飲料など有害な食品が出回っています。また食物アレルギーの有無もあったりで、むしろ自分の命と健康を守るために、「とりあえずにほいをかぐ」ほうがよいのかも。ブラックユーモアではなく、現実の問題として、必要最低限の「自衛手段」といって過言ではないようです。 (つづく)

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【野口料理学園】

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