塩 ひ と つ ま み

■マナーは世につれ (その2)

「行儀が悪いと言われてもやめられない食事中のマナーランキング」(goo)には、全部で30項目が挙げられています。前回はそのうちの上位10項目をとりあげました。残りの20項目はリンクしてみていただくとして、私としてはどうにも不満で、腑に落ちないことがあります。「ごはんを残す」の項目がないのです。これは一体どうしたことでしょうか。

昔から、食事のマナーとして筆頭にあがるのは、「ごはんを残してはいけません」です。「ごはん」はごはんだけでなく、おかずも含まれ、広くいえば食べ物全般を意味します。食べ物を粗末にしてはいけない、と口酸っぱくいわれ、耳にたこができるほどでした。残すつもりはなく、ごはんなど茶碗にこびりついていても、「ちゃんときれいに食べなさい」ととがめられたものです。それがどうしてランキングにはないのでしょう。言わずもがなのことなので入れてない?! それともウッカリ忘れた?!

こうも考えられます。あくまで「食事中」のマナーであって、「残す」のは「食事後」の行為なので扱わなかった。好意的にそう解釈しようとしたのですが、どうも違います。25位の項目に、「ピザやパンのみみだけ残す」とあって、あきらかに「食事後」を取り上げています。それともピザやパンのように、本来一体のものを、わざわざ取り離すところだけを問題視するのでしょうか。そうであれば、残す残さないは別個のものとして、項目の文章は「ピザやパンのみみだけ離す」か「〜〜みみだけ取る」にすべきです。でも、離したり取ったりしたものを、あとで食べます? やはり、残すでしょ、しっかりと。

重箱の隅をつつくようで申し訳ありません。こうもこだわるのは、「ごはんを残してはいけません」の金言がどこかへいってしまったのではないかと心配するからです。ものを粗末にしない、とりわけ食べ物を粗末にしたら罰があたるといわれて育った世代としては、敏感にならざるを得ないところがあります。「マナーは世につれ」とはいえ、「ごはんは残さない」は変わらないでいて欲しいマナーです。

ただ、本当におなかが一杯でもうこれ以上食べられないというときがあります。そんなときは素直に、「ごめんなさい」と謝りましょう。でも、どうしようもないほどまずくてそれ以上はいくらがんばっても無理、という事態に“遭遇”したら? しょうがありません、自分の頭の中のコンピューターにできるだけたくさんの情報をすばやくインプットし、損得を計算してから答えをだしてください。正答はありません。

もうひとつ。「残すのは行儀が悪い」は万国共通ではありません。逆の習慣をもつ民族、国があることも承知しておく必要があります。たとえば、中国です。食事後、お皿にひと口残しておくのはエチケット。食べきれないほどおいしくたくさんいただきました、の意味が込められています。その種のマナーは中国以外にもあるかもしれません。世界は広し、です。

「食べ物を粗末にしない」に関連して、さらにもうひとつ。「大食い」「早食い」というのがあります。どちらもあまり健康によいとはいえず、家庭内でお子さんにそのようにしつけているお母さんはおそらくいないでしょう。時によって、「早く食べなさい」とか「いっぱい食べなさい」といわなければならない場面はありますが、それではありません。ここでいうのは、見世物として競争で行なわれる「○○コンテスト」です。

日本の各地には、「わんこそば」や「大飯食らい」などの神事や伝統行事があります。これは、貧しかった時代のたらふく食べてみたいという庶民の願いや、無病息災、子孫繁栄、豊作祈願など地域の人々の切実な思いが縁起となっています。また、食堂やレストランが客寄せのためにやることもあります。それらは地域限定の「ご愛嬌」の範囲を超えない程度なら、ほほえましい風景・風物詩として目くじらをたてることもないでしょうが、テレビ番組で大々的に、しかも頻繁に行なわれるのはいかがなものでしょうか。

出場者の吐いてまでタイトルに執念を燃やすさまは、見ていて哀しくなります。「食」というもの(食物と食べる行為)をないがしろにしているとしか思われません。大層にいうつもりはありませんが、世界に何億という飢餓人口がいて、その人たちを救うために私たちの税金もふくめた莫大な資金が援助されているという現実をふまえると、正視できなくなります。

アメリカで開かれる「世界ハンバーガー大食い選手権」が世界的に有名です。この大会が毎年すんなりと開かれているのが不思議でなりません。邪魔が入った、反対デモがあった、開催が中止になったなどの話をききません(規模が小さいものや散発的にはあるのかもしれませんが)。人権、博愛を御旗にかかげるお国柄ですから、「大食い」と「飢え」の矛盾をつく団体が、異を唱えてもよさそうなものです。「捕鯨」とか「毛皮」とか動物愛護は必死に叫びます。ましてや対象は「人間」なのですよ…。

この種の大会を、一度、アフリカでやってみたらいい。羨望で拍手喝采されるか、怨嗟で暴動がおきるか。どちらにしろ、想像以上の効果が得られると思います。 (おわり)

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【野口料理学園】

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