塩 ひ と つ ま み |
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この2月まで毎週土曜日に発行されていたフリーペーパー「かわせみ」にJICAの日系シニアボランティアとしての活動を通して感じた様々のことを、月に一度、12回書かせていただきました。「かわせみ」を発行していた「タウン企画」のご好意で、HP「家庭料理が一番!」の「塩ひとつまみ」に載せるご許可をいただきました。つたない文章ですが、良かったら、私のモジ・ダス・クルーゼスでの「食」を中心にした活動と同時に、ブラジルでの生活、日系社会とのかかわりについてお読みいただけたら、幸いです。モジから「ボンジーア」
●10 お母さんのすりばちとすりこ木 2018年10月13日掲載
10年前、当時、日系社会シニアボランティアとしてサンパウロで暮らしていた主人から、問い合わせ、「すり鉢・すりこ木って何に使う?」。移民史料館で、移民100周年の記念事業として、史料のデジタル化を企画、その実践のボランティア活動中、主人の知り合いで、1955年アマゾン移民としてマナウスの近くのマナカプルーという植民地に入った方から、聞かれたそうです。
このご家族は日本で聞いていた話とちがって、受け入れ態勢はまるで整っていない、文明文化から隔たった赤道直下の僻地で、さんざんな目にあいました。命からがら、着の身着のまま、逃げるようにしてたどり着いたリオデジャネイロ。そこでも仕事がみつからず、さらにサンパウロへ。いくつかの偶然に助けられてなんとか生きのびることができた数十年後、苦労の連続だったそのお母さんが92歳で亡くなり、遺品の中から、出てきたのが「すり鉢・すりこ木」。
アマゾンを逃げるように後にしたゴタゴタのなかで、重いうえに割れやすく、収まりが悪い形のものをなぜわざわざ選んだのか。そもそも、そうまでして持ち出したかったものが、なぜ「すり鉢・すりこ木」なのだろう。知り合いに思い当たるふしはなく、主人ならと頼ってきたのです。
私なりに考えました。「和食」にとってなくてはならない道具、新天地で、家族に日本の料理を作ってあげたい、苦労の連続の中でも、きっといつか、使うときが来る、来てほしい、そんな暮らしができることを夢見て、手放せなかったのでは・・・それから、「すり鉢・すりこ木」で料理するたび、気になっていました。
モジに着いてから2カ月間、料理講習会のために、食材はもちろん道具についても色々調べました。講習を申し込んでくれた婦人部の調理室を訪ね、「和食」の調理に必要な道具については実物を確かめました。残念ながら、どこにも「すり鉢・すりこ木」はありませんでした。
主人の話から、きっと誰か持っている・・・講習の内容を決める前に婦人部に問い合わせると、ありました、立派なものが。「ソーグラ(姑)が日本から持ってきたものです。」「和食が作ってみたくて、日本に遊びに行ったとき、買ってきました。」もちろん聞きました。「何に使ってますか?」二世、三世のほとんどの皆さんが、異口同音、使ったことがない・・・中には逆に、「どう使うんですか?」ときいてくる。
先の知り合いの話から想像するに、皆さんのお母さんも様々な苦労の連続の中で、持っていても使う機会がなかった。だから、その娘、孫が「使ったことがない」。
そして、今や「時短」。ブラジルでも、電動のごますり器、フードプロセッサーなどが取って代わっています。イエ、日本では、それさえ要らない。すぐ使える食材(例えば、すりごま)、さらに「おかず」が売られていますから。
「ほうれんそうの胡麻和え」、「野菜の白和え」、「たたきゴボウの胡麻酢和え」の実習は、大好評。ひとりひとり、順番にすりこ木をもってすり鉢と向き合う。そのにぎやかな、活気あふれる様子に、「これぞ、和食普及の実践」とひとり、悦に入ってました。
食育の授業で《白和え》 ほうれんそうの胡麻和え(手前)
野菜の白和え たたきごぼうの胡麻酢和え 胡麻を煎って、ゆっくりと擂(す)ると、プチプチとはじける音、すりこ木を回すたびにこおばしい香り、だんだん無心になっていく・・・知り合いのお母さんが持つことができなかった「この時間」を、今こそ、ブラジルで、もちろん日本でも大切にしてほしいものです。
※胡麻を使った料理3点。
盛り付けの小鉢が講習会場になかなかなくて、「ほうれんそうの胡麻和え」は《鶏肉の照り焼き》の皿に付け合わせのような形で盛りました。
「野菜の白和え」は、小さ目のデザート皿に盛りました。
大きなどんぶりに盛ってあるのは「たたきごぼうの胡麻酢和え」、みんなでサラダのように取り分けて食べました。【野口料理学園】
§【ご意見、ご感想をお寄せください。ご質問もどうぞ。】 ichiban@kateiryouri.com
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